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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)11032号 判決

原告 株式会社 湘南光膜研究所

右代表者代表取締役 原和雄

右訴訟代理人弁護士 小室貴司

右訴訟復代理人弁護士 伊藤文夫

被告 宮住鯉蔵

右訴訟代理人弁護士 破入信夫

主文

一  被告は原告に対し、金二八四六万二三一四円及びこれに対する昭和五三年一一月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金五四五三万九六四三円及びこれに対する昭和五三年一一月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  金銭消費貸借契約の成立

(一) 原告は被告から、別表1ないし94(ただし別表73、80ないし82は欠番である。以下同じ。)記載のとおり、手形又は小切手を担保として金員を借り受けた。

その詳細は、以下のとおりである。

ア 借入日

別表年月日欄記載のとおり

イ 借入金額

別表額面欄記載のとおり(担保手形・小切手の額面額でもある。)。ただし、右借入金額から同表割引料欄記載の利息額が天引きされていたので、原告が現実に交付を受けた金員は、その差額である同表手取額欄記載の金額である。

ウ 返済期限

別表期日欄記載のとおり(担保手形の支払期日でもある。)。ただし、同欄に記載のないものは小切手を担保とする貸付であり、これらについては、借入日の二日後を返済期限(現金化に事実上必要な三日の貸付期間)とする約定である。

なお、借入日から返済期限までの貸付日数(初日算入)は、同表日数欄記載のとおりである。

エ 約定利率

別表日歩欄又は利率欄に記載のとおり(ただし、小切手割引については、日数計算によらず、額面に同欄記載の割合を乗じて計算)。

オ 利息額

別表割引料欄記載のとおり(前記のとおり天引き利息である。)。

カ 担保手形・小切手

別表銘柄欄記載の会社の振出しにかかる、同表額面欄記載の額面額の手形(期日欄に記載のあるもの)又は小切手(期日欄に記載のないもの)。

(二) なお、右の手形・小切手の差入れ及びこれに伴う金員の授受(以下「本件割引」という。)が、手形・小切手の売買ではなく、手形・小切手を担保とする金銭消費貸借であることは、以下の事実から明らかである。

(1) 原告は、昭和四九年一二月五日、被告のために、東京都品川区戸越一丁目一二〇〇番六の土地等に極度額を一〇〇〇万円(昭和五〇年二月二〇日に二〇〇〇万円に変更)、債権の範囲を証書貸付取引、手形・小切手債権とする根抵当権を設定した。右根抵当権の設定及び極度額の変更は、本件の貸付金をも担保する趣旨であった。

(2) 被告は、本件割引関係の精算書(甲第五ないし第三五号証)を作成するに際し、「割引」の語を用いず、かえって割引料を「利息」と明記していた。

(3) 被告は、本件割引の割引料を、手形・小切手の振出人の支払能力等にかかわらず、一定の利率(一部の手形及び小切手を除き日歩一一銭)で計算していた。

(4) 被告は、いわゆる町の金融業者であった。

2  元本の弁済

(一) 別表1ないし84記載の割引にかかる手形・小切手はすべて前記1(一)ウの返済期限(手形はその支払期日、小切手は割引日の二日後)に決済された。そして、別表85ないし94記載分の小切手割引に関しては、原告が被告に対して額面額を直接現金で支払って返済した。

なお、原告としては、被告が以上の手形・小切手を割り引いた後に第三者に譲渡(再割引)していたかどうかは知らないが、そうだとしても振出人と最終所持人との間で右期限に決済がなされた。

(二) なお、本件手形・小切手の決済が原・被告間で行われていないもの(本件手形・小切手が第三者の振出しにかかるもの及び被告が割り引いた手形・小切手を再割引に出したもの)については、直接原・被告間で元本の弁済がなされたわけではないが、振出人から最終所持人に至るまでの本件手形・小切手の流通過程における原因関係、対価関係をたどって考えれば、実質的には原告の出捐によって被告は貸金債権の満足を得たといえるから、直接原・被告間で弁済がなされた場合と同様に考えることができる。そして、被告が本件手形・小切手を第三者に額面額未満の対価で譲渡(再割引)していたとしても、被告は本件手形・小切手の決済を自ら受けることができたのであるし、現に決済がなされている以上、被告は右再割引価格の限度で貸金債権の満足を得たに止まらず、当該手形・小切手の額面額相当の満足を得たというべきである。

3  過払金の発生

本件割引に基づく借受金債務の利息制限法所定の上限利息(以下「法定利息」という。)は、約定利息天引き後の手取額を元本として、借入日から弁済日までの日数(別表日数欄記載の日数)につき、同法所定の利率を乗じた金額(同表法定利息欄記載の金額)であるが、約定利息(同表割引料欄記載の額)はすべて右法定利息を超えており、その差額である同表過払額欄記載の金額合計五四五三万九六四三円は原告の過払金であり、被告は同額の不当利得を得ている。

4  よって、原告は被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、五四五三万九六四三円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五三年一一月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)中の本件割引に関する事実関係に対しては、別表各欄の下段に○印を付した部分は認め、その余は否認する趣旨であるが、これを詳説すると以下のとおりである。

(一) 別表1ないし54記載分については、被告が、原告主張の手形・小切手を(ただし期日欄下段に×印のあるものは手形の支払期日を否認する。)、その主張の日に(ただし年月日欄下段に×印のあるものは割引日を否認する。なお、割引手形・小切手は金員と引換えに授受されていないので、右手形・小切手の授受の日としてはすべて否認する。)、その主張の割引料及び手取額で(ただし、別表5・通し番号七九の手取額、別表24・通し番号三三八の割引料は否認する。右各金額は該当欄下段に記したとおりである。)、それぞれ割り引いたことは認め、その余は否認する。

右割引は、いずれも手形・小切手の売買であり、金銭消費貸借ではない。

(二) 別表55ないし67、76ないし79に記載分はすべて否認する。

原告の主張する手形及び金員の授受はなされていない。

(三) 別表68ないし75、83、84に記載分のうち、

ア 銘柄欄・額面欄の下段に○印のあるものについては、被告が原告からその主張する手形の交付を受けたことは認め、その余は否認する。

なお、右のうち銘柄欄下段に「仲介」と付記したものについては、被告は、右手形の割引先の斡旋・仲介をし、その手数料を取得したに過ぎず、被告自身が割り引いたのではなく、当然、金銭消費貸借契約を締結したわけでもない。

イ 銘柄欄・額面欄の下段に×印を付したものについてはすべて否認する。

原告の主張する手形及び金員の授受はなされていない。

(四) 別表85ないし94に記載分のうち、

ア 銘柄欄・額面欄の下段に○印を付した部分については、被告が原告からその主張の小切手の交付を受けたことは認め、その余は否認する。

右小切手の授受は独自の取引として行われたものではない。すなわち、被告は、資金繰りの窮迫していた原告の求めに応じて、割引手形・小切手の交付を受けるに先立って原告に金員を交付するという方法(前渡金方式)をとっていたが、右金員交付時に領収証の代わりに原告からその振出しにかかる小切手の交付を受け、後日割引手形・小切手の交付を受けた際に、右原告振出小切手は原告に返却していた。そして、上記小切手は右のように領収証代わりに授受されたものに過ぎないから、これらにつき独自の割引がなされたわけではない。

イ 銘柄欄・額面欄の下段に×印を付した部分は否認する。原告の主張する小切手及び金員の授受はなされていない。

2(一)  同1(二)前文は争う。

(二) 同1(二)(1)のうち、根抵当権の設定及び極度額の変更は認め、その被担保債権の範囲に本件取引上の債権が含まれることは否認する。

本件の手形割引において、借用書、担保の差入れは行われていない。被告は、割り引いた手形・小切手はもっぱら再割引に出しており、原・被告間における弁済によって決済されるという意識は全くなかった。

(三) 同1(二)(2)は認める。

しかし、被告は便宜上「利息」の語を用いていたに過ぎず、かえって、原告はその作成書面において「割引料」の語を用いている。

(四) 同1(二)(3)は認める。

しかし、被告は、原告との手形割引取引において、当初は振出人の資力に応じて割引料を決定していたのであり、その後、被告が原告の取締役に就任したころ、原告との手形割引が膨大な回数に上ることが予想されたため、原告の求めに応じて金利負担を全体として軽減してやるために概ね日歩一一銭に統一したに過ぎない。

(五) 同(1)(二)(4)は認める。

しかし、被告の営業内容はほとんど手形の買取であった。

3(一)  同2(一)のうち、原告が別表85ないし94記載分につき額面相当額の現金で返済をしたこと、割引小切手(被告が受領を認めた分)の決済が原告主張の日にされたことは否認し、被告が受領を否認している手形・小切手の決済は不知、その余は認める。

(二) 同2(二)は争う。

4  同3は争う。

三  被告の主張

1  本件割引は手形・小切手の売買であるから、利息制限法の適用はなく、同法との関係で不当利得の問題は生じない。

2  仮に、本件割引が金銭消費貸借であるとしても、以下の点につき、原告の請求は減額されるべきである。

(一) 被告は、割り引いた手形をすべて三和銀行、株式会社境野商店、株式会社豊栄信用らに再割引に出し、その再割引価格の限度で貸金の回収をしたに過ぎないのであるから、被告に現に存する利益は右再割引価格が限度であり、原告の主張額から再割引料は控除されなければならない。

そして、右再割引料のすべてを資料に基づいて明らかにすることはできないが、少なくとも三和銀行との間で別紙再割引表記載のとおり再割引をしていた。

(二) 別表1ないし54記載の手形割引に関し、原告と被告は、割引料算定の際、割引金交付時から手形の支払期日までの日数に、資金化に事実上必要な日数を加えて、同表日数欄下段に記載の日数を基準としていたのであるから、右日数が約定の貸付期間というべきであり、法定利息の計算も右日数によって計算されるべきである。

四  被告の主張に対する原告の認否

すべて否認ないし争う。

第三証拠《省略》

理由

一  当事者間に争いのない事実

別表記載各欄の下段に○印を付した部分については、被告が原告に対し、原告主張の年月日に、割引手形・小切手の額面額から割引料を控除した額の金員を交付し、これに対し原告が被告に対し、右割引手形・小切手(振出人は銘柄欄に、手形の支払期日は期日欄にそれぞれ記載のとおり)を交付したこと、右割引手形・小切手はその後すべて決済されたことは、当事者間に争いがない。

二  原・被告間の手形・小切手割引の概要

右当事者間に争いがない事実並びに《証拠省略》によれば、以下の事実を認めることができる(ただし、その詳細については個々の取引の類型ごとに後に検討することにし、ここでは概要を認定するに止める。)。

1  被告は日本短資の屋号で手形割引を中心とする金融業を営むものであり、いわゆる町金業者であるが、昭和四〇年代の終わりころから原告との間で手形割引、不動産担保貸付等を行うようになった。

2  原告は当時資金繰りが窮迫していたため、昭和五〇年三月ころ、被告に資金応援(増資の引受)を依頼したところ、被告は取締役就任を条件としてこれを承諾し、被告は同年四月一九日に原告の取締役に就任した。

3  被告は、取締役就任以後、原告の印鑑を一時管理するなどして、原告の受取手形・小切手の相当部分を自ら割り引いて、原告の資金繰りに深く関与するようになった。

4  被告による割引の対象となったのは、①商業手形(別表1ないし54のうち期日欄に記載のあるもの及び同55ないし67記載分)、②原告振出手形及びこれに準ずるもの(別表68ないし75、83、84記載分。なお、これらの内には第三者振出手形もあるが、それらは、後記認定のとおり、原告振出手形に準ずる融通手形に近い性質のものと考えられるので、以下これらを総称して「単名手形」という。)、③第三者振出小切手(別表1ないし54のうち期日欄に記載のないもの及び同76ないし79記載分。以下これらを「受取小切手」という。)、④原告振出小切手(別表85ないし94記載分。以下これらを「振出小切手」という。)の四種類があり、そのそれぞれによって割引料の算出方法が異なっていた。すなわち、①商業手形については、割引日から手形期日までの期間を基準にこれに数日を加えた日数について額面額に対し、概ね日歩一一銭の割合(当初は振出人の信用いかんにより利率を日歩七銭ないし一九銭の範囲で個々に定めていたが、昭和五〇年六月以降は日歩一一銭に統一された。)を乗じた金額であり、②単名手形については計算方法は右と同一であるが、利率は日歩一八銭であり、③受取小切手については、日数計算によらず、額面額に三パーセント(一部二パーセント)を乗じた金額であった。

三  ところで、本件割引の内容はその取引時期、対象となった手形・小切手の種類、原告がその裏付けとする証拠の種類によって一種ではなく、それに対応して被告の認否も大きく異なっているので、以下、認定の便宜上次のように分類して順次判断することにする。

ア  別表55ないし67記載分(以下「前期商業手形割引」という。)

割引対象は商業手形、取引時期は昭和五〇年四月から昭和五一年三月まで、主たる書証は原告作成の「振替伝票」であり、被告は事実関係を全面的に否認する。

イ  別表68ないし75記載分のうち、銘柄欄下段に「仲介」と付記してあるもの及び同83、84記載分(以下「仲介手形割引」という。)

割引対象は単名手形、取引時期は昭和四九年一二月から昭和五一年一二月まで、主たる書証は手形の写し及び一部につき「振替伝票」であり、被告は手形の授受を認めるが、割引の仲介をしたに過ぎないと主張する。

ウ  別表68ないし75記載分のうち、銘柄欄下段に「仲介」と付記していないもの(以下「単名手形割引」という。)

割引対象は単名手形であるが、取引時期は昭和五〇年四月から昭和五一年八月、主たる書証の種類は「振替伝票」(イの仲介手形割引に関するものを含む。)である。被告は一部の手形の授受を認めるものの、割引の事実は全て否認する。

エ  別表76ないし79記載分(以下「前期受取小切手割引」という。)

割引の対象は受取小切手、取引時期は昭和五〇年四月から昭和五一年三月まで、主たる書証の種類は「振替伝票」。被告は割引の事実を全面的に否認する。

オ  別表1ないし54記載分のうち、期日欄に記載のあるもの(以下「後期商業手形割引」という。)

割引対象は商業手形、取引時期は昭和五一年三月から昭和五三年六月まで、主たる書証は被告作成の「精算書」であり、被告は割引の事実関係は概ね認める。

カ  別表1ないし54記載分のうち、期日欄に記載のないもの(以下「後期受取小切手割引」という。)

割引対象は受取小切手であるが、取引時期、主たる書証及び被告の認否は右オと同じ。

キ  別表85ないし94記載分(以下「振出小切手割引」という。)

割引対象は振出小切手、取引時期は昭和五〇年三月ないし昭和五三年六月、主たる書証は小切手原本及びその「耳」である。被告は一部の小切手の授受は認めるが、割引の事実は全て否認する。

四  前期商業手形割引について

1  事実関係の認定

(一)  原告の主張する三アの前期商業手形割引については、《証拠省略》中には、原告主張の割引の事実に沿う記載があるほか、右各証言中にもこれに沿う部分がある。

(二)  ところで、右振替伝票中には、被告の屋号である「日本短資」又は被告の頭文字と思われる「M」の記載のあるものもあるが、その記載自体からは誰が割り引いたものか全く不明なものもある。そして、右割引については、割引の事実自体が全面的に争われていること、右振替伝票等の書証は全て原告の作成にかかる内部的な書類であるがそれにすら被告との結びつきを示す記載はないこと、原告としては、右振替伝票と被告の結びつきを立証するについて、本件訴訟の提起当初の時期には、手形の写しやその決済の状況についての資料を入手するなどしてたやすく原告の主張を裏付ける客観的な証拠を求めることもできたはずであるのに、このような手当てをしていないことなどに照らすと、少なくとも、右振替伝票自体から割引の相手を特定することのできない前掲書証にかかる割引部分(別表55ないし67のうち、通し番号七三九ないし七四二、七五〇ないし七五一、七七一ないし七七三、七七五ないし七七七、七九一、七九二、八二六ないし八四〇、八四二ないし八四六、八五一ないし八七〇、八九二ないし九〇〇のもの。この関係の請求金額計三三〇万六六一二円。)については、原告の主張する割引の事実の立証は不十分といわざるを得ない。なお、前期商業手形割引の相手は全て被告であるとの前記各証言も、《証拠省略》に照らしてただちに採用することはできず、他に右割引を認めるに足りる証拠はない。

(三)  そこで、次にその余の前期商業手形割引(振替伝票に「日本短資」又は「M」の記載のあるものにかかる部分、すなわち、別表55ないし67の通し番号七三三ないし七三八、七四三ないし七四九、七五二ないし七七〇、七七四、七七八ないし七九〇、七九三ないし八二五、八四一、八四七ないし八五〇、八七一ないし八九一)の事実関係について判断するに、「日本短資」又は「M」の記載(もっとも「日本短資」の記載が殆ど印判によっているのに対し、「M」の記載は手書きであり、そのように二種類の違った記載がなされているのがいかなる理由によるのかは判然としない。)は、被告との間の取引(割引)を示すものと推測することができるうえに(被告が授受を認める手形・小切手に関する振替伝票の多くにも同様の記載があるし、この記載を含め振替伝票の記載について特に作為を窺わせる事情も認められない。)、前期商業手形割引の取引時期(昭和五〇年四月ないし昭和五一年三月)は、被告が原告の取締役に就任した前後以降であり、《証拠省略》によっても、この時期に原、被告間に相当数に上る商業手形割引が行われていたことが窺われる。以上の事実を総合すると、右の部分については、原告の主張するとおりの割引がされたと認めるのが相当である。これと反する《証拠省略》は、以上に照らして採用することができない。

2  割引の法的性質

割引の事実が認められる右の部分に関し、これが手形の売買であるか、手形担保貸付であるかについて、判断する。

(一)  《証拠省略》中には、被告は手形を買い取る意思であったとの供述があるほか、同供述によれば、右割引にかかる手形はいずれも商業手形であること、本件割引につき借用書の作成、抵当権等の設定等がなされなかったことが認められるなど、手形の売買であることを推測させるかに見える事実もあるが、他面、前期手形割引の開始と前後して被告は原告に出資し、その取締役に就任するなど両者は密接な関係にあること、初期の若干のものを除きその割引率は振出人の信用いかんにかかわらず一定であること、被告はいわゆる町金業者であるなどの前後認定事実に照らすと、被告は、割引手形の客観的価値よりも原告の信用を重視して金融の便を与えたもので、手形不渡りの場合には原告に対する責任追及を当然予定していたものであったと推認するのが相当であり、前期商業手形割引については、その割引各手形を担保とするとともに、これを支払手段とする貸付であったと認めることができる。

(二)  そして、右貸付の内容は、手形割引率の算出方法に関する前記二4①の認定事実(額面額に貸金交付日から手形期日までの日数を基礎にした日数・利率を乗じて計算)等に照らすと、手形額面額を貸付元本、割引率を天引利息、その差額である手取額が現実に交付された金額、手形の支払期日を返済期日とする内容であったと認めることができ、《証拠省略》によれば、右貸付元本、天引利息、貸付日、返済期日は、いずれも原告主張のとおり(別表記載のとおり)であると認められる。

なお、実際には右日数については、貸金交付日から手形期日までの日数にさらに数日を加えて計算していたことは前記認定のとおりであるが、手形が不渡りにならない限り、期日に手形金の支払がされることは明らかであり、前記のとおり支払手段として手形の交付がされたと認められる本件においては、そのような計算に合理的な理由を見出すことはできない(被告本人は、換金に事実上必要な日数等を加算したと供述するが、その主張する再割引の事実とも矛盾し、かつ、数十日の加算がなされているものもあり、右の供述では合理的な説明ができない。)。したがって、当事者の合理的な意思解釈としては、手形の支払期日を返済期日とする旨の約定があったと認めるべきである。

3  割引手形の決済

右割引にかかる商業手形がいずれもその支払期日に決済されたことは、《証拠省略》によって認められる。

そして、支払いのために交付された手形が決済された場合には、その原因関係上の債権も額面相当額の満足を得て消滅することは明らかであるから、右割引名下の金銭消費貸借に基づく被告の貸金債権は、別表期日欄記載の日に額面額の返済を受けたと同様に考えることができる。

4  原告の過払額

以上の認定事実に従って、別表55ないし67の通し番号七三三ないし七三八、七四三ないし七四九、七五二ないし七七〇、七七四、七七八ないし七九〇、七九三ないし八二五、八四一、八四七ないし八五〇、八七一ないし八九一の各割引(金銭消費貸借)につき、決定利息の額を計算すると、別表各該当行の法定利息欄記載の金額となり(利息天引き後の手取額を計算上の元本として、法定利率及び年単位に換算した貸付期間(割引日から返済期日までの初日算入による日数、すなわち別表日数欄記載の日数)を乗じて計算。その詳細は、《証拠省略》のとおり。)、いずれも割引料名下の約定利息の額を下回っている。そして、その差額は、別表該当行過払額欄記載のとおりであり、その合計は四四〇万一八一三円である。

したがって、右割引に関し、被告は原告の過払いにより右同額の不当利得を得ているというべきである(なお、理論上は、天引き利息中の法定利息超過分はいったん貸金元本に充当され、次いで額面額の返済により右超過分と同額の不当利得を生ずることになる。)。

五  仲介手形割引について

1  三イの仲介手形割引について、被告が原告主張の手形の交付を受けたこと、その決済が支払期日になされたことは、当事者間に争いがない。

2  そして、原告はこれらの単名手形も被告が割り引いたものであると主張し、被告はこれについては原告が第三者から手形割引を受けるに当たって、その仲介をしたに過ぎないと主張するので、判断する。

まず、《証拠省略》によれば、これらの手形は、いずれも振出人を原告、受取人兼第一裏書人を旭洋樹脂工業株式会社又は株式会社三興自働機製作所、第二裏書人を被告、第三裏書人を株式会社豊栄信用又は株式会社境野商店とするものであり、手形交換所を経て決済されていることが認められる。そして、この認定事実、右1の争いのない事実及び《証拠省略》を総合すると、これらの手形は商業手形ではなく、被告がそのまま割り引いても通常のルートでの再割引が事実上不可能であるため、被告の紹介により原告の取引先らしく見うる裏書人(旭洋樹脂工業株式会社又は株式会社三興自働機製作所)を第一裏書人として介在させて、商業手形のように偽装することを前提にして被告が割り引いたものと認められる(被告は自ら割り引いたのではなく、割引の仲介をしたに過ぎないと供述するが、《証拠省略》によっても、第一裏書の記載のない手形及び割引金の授受が原・被告間でなされていたことが認められ、これに照らしても被告の右供述を採用することはできない。)。そして、この場合には右手形を担保とするとともに、これを支払手段とする貸付がされたとみることができる。

3  しかし、《証拠省略》によれば、被告は割引料の一部(半分程度)を第一裏書人に対して裏書きの報酬として支払っていたこと、この関係の割引率は日歩一八銭ないし二〇銭と同時期の商業手形割引におけるそれよりかなり高いことが認められ、これに右2認定事実を総合すると、右割引における割引料は、原告振出手形を商業手形のように偽装するための手数料ないし紹介料を含んでおり、右の手形割引を受けるに当たっては、法律上の消費貸借契約のみならず、一種の準委任契約が成立していたと認めるのが相当である。したがって、この割引料が利息性をもつことは否定できないが、他方右準委任の費用報酬をも含むものというべきであり、これはもっぱら消費貸借契約に関して手数料等の名目で金員の交付があった場合(利息制限法三条のみなし利息)と同じにみることはできない。そして、右割引料のうち、利息部分と右費用酬報部分(これは超過利息として法律上の原因のない給付とすることができない。)とを区分特定することはできないので、法定利息超過に伴う不当利得額を確定することができない。

よって、仲介手形割引に関する原告の請求は理由がない。

六  単名手形割引について

1  事実関係の認定

(一)  原告の主張する三ウの単名手形割引に関し、別表74の通し番号九五九、九七〇ないし九七三記載分(いずれも訴外本間製作所振出し)について被告が原告主張の手形の交付を受けたことは、当事者間に争いがない。

そして、右争いのない事実に、《証拠省略》を総合すると、被告が授受を認めた右の手形については、原告主張の内容の手形割引の事実及び右割引手形がその支払期日に決済されたことを認めることができ、この認定を左右する証拠はない。

(二)  次に、単名手形割引のうち、被告が手形の授受を否認している部分(別表68ないし75記載分のうち、銘柄欄下段に×印を付してある部分)の割引の有無について判断する。

(1) これらの割引についての証拠の構造は、前期商業手形割引の関係とほぼ同一である。すなわち、原告の主張に沿う第一次的な資料となるのは、原告作成の振替伝票だけであるが、これらの内には、①「日本短資」又は被告の頭文字を示すと考えられる「M」等の記載のあるもの、②その記載自体からは誰が割り引いたのか不明なものとがある。

そして、前記四1(二)で判断したところと同様に、右②にかかる割引(別表68ないし74の通し番号九〇五ないし九一一、九二三、九二四、九六五ないし九六九記載分。請求金額計一五六万九九五五円。)については、右振替伝票の記載及び《証拠省略》をもってしても、原告主張の割引の事実を認めるに足りないといわなければならない。

(2) これに対し、右(二)(1)記載①の被告との間の割引であることがその記載から窺われる振替伝票にかかる割引(同通し番号九一二ないし九一五、九二五、九二六、九二九、九三〇、九五三ないし九五六、九六〇、九六一記載分)については、前記四1(三)における判断と同様の理由によって原告主張の割引の事実を認めることができ、その割引手形がその支払期日に決済されたことは、《証拠省略》によって認めることができる。

2  以上を整理すると、単名手形割引については、別表74の通し番号九五九、九七〇ないし九七三記載分及び同68ないし74の通し番号九一二ないし九一五、九二五、九二六、九二九、九三〇、九五三ないし九五六、九六〇、九六一記載分についてのみ、原告主張の割引及び決済の事実が認められる。

そして、右割引の法的な性質については、前記四2で判断したところに加え、右割引手形は第三者(岩井製作所及び本間製作所)振山しにかかるものであるが、商業手形ではなく、融通手形に近いものと考えられるので(この振出人は右二者に限られており、この関係の振替伝票は「単名手形」の表題の下に編綴されていること、割引率も商業手形に偽装したという前記仲介手形と同一であることから、右のように推認するのが相当である。)、これを金銭消費貸借と認めることができる(なお、これについても右仲介手形と同様中間者に対する報酬ないし手数料の支払がされていたのではないかとの疑いもあるが、その裏付け証拠は何もない。)。

そして、これらについて、前記四4の商業手形割引におけると同様に法定利息超過金額を求めると、右1(一)認定部分が計四六万五七三六円、右1(二)(2)認定部分が計一二五万四四八二円となり、被告はその合計一七二万〇二一八円の不当利得を得ているというべきである。

七  前期受取小切手割引について

原告は三エの前期受取小切手割引につき、被告は原告の所持していた受取小切手を、その額面額から二ないし五パーセントを控除するなどした金額で割り引いたので、これは返済期日を二日後とする約定(現金化に事実上必要な三日間の与信の趣旨)の利息天引きを伴う金銭消費貸借であると主張する。

しかし、そもそも原告主張の受取小切手は原告において即時にこれを換金することが可能なものであり、これを用いて信用供与を受ける必要はないこと(たしかに、原告のいうように、交換を経て現実に口座入金するまでには三日程度を要することも考えられるが、そのような差迫った処理が必要であった状況は窺えず、そのような与信を想定することが当事者の合理的な意思とは考えられない。)、また、右割引料なるものの算出方法も、一連の手形割引におけるように返済日までの日数及び一定の利率に従って計算するのではなく、ほとんどのものは額面額に一定の割合(概ね三パーセント)を乗じて計算していることに照らすと、右割引に伴う金銭授受を金銭消費貸借とするには疑問が残る。要するに、このような取扱いについては、合理的な説明は困難であり、原告と被告の力関係において、被告の利得を増大させるため小切手の換金も原告自らが直接取り立てず、被告を通してしていたというに過ぎず、委任類似の法律関係のように思われる。なお、当事者の意思を推測しても、原告の作成にかかるこの関係の振替伝票である甲第一五五ないし第一八一号証の仕分けにおいても、手形割引とは明らかに扱いを異にして、借入金としての扱いをしていない。

以上を総合すると、右小切手割引については、他の理由で無効とされる可能性はあるにせよ、利息制限法の適用ある金銭消費貸借と認めることはできないというべきである。

したがって、この点の原告の請求は理由がない。

八  後期商業手形割引について

1  事実関係の認定

(一)  三オの後期商業手形割引については、被告が、原告主張の手形を(ただし期日欄下段に×印のあるものの手形の支払期日を除く。)、その主張の日に(ただし年月日欄下段に×印のあるものの割引日を除く。)、その主張の金額で(ただし、別表5・通し番号七九の手取額を除く。)、それぞれ割り引いたことは、当事者間に争いがない。

そして、別表5・通し番号七九の割引における手取額が三九万三三〇〇円であることは額面から割引料を控除することによる計算上明らかであり、このとおり認定するのが相当である。

そして、手形の支払期日及び割引日のうち、被告が争う部分(該当欄下段に×印のあるもの)については、《証拠省略》によって、原告主張(別表各該当欄記載)のとおりであると認められる。

そして、右割引手形が全てその支払期日に決済されたことは当事者間に争いがないので、これに右認定事実を総合すると、別表期日欄記載の日にこれらの手形はすべて決済されたと認められる。

(二)  なお、右事実に、《証拠省略》を総合すると、右割引の具体的な方法としては、遅くとも昭和五一年三月以降(後期商業手形割引取引時期)は、割引手形・小切手が膨大な数に上ったこと、原告の資金繰りが窮迫しており、手形・小切手の現実の入手を待てない場合もあったことから、被告は割引手形・小切手の受領に先立って前渡金を交付し、後日右手形・小切手の入金後に詳細な割引料の計算をまとめて行い精算するという方法(以下「前渡金方式」という。)が採用されたことが認められる。

その詳細は、以下のとおりである。

(1) 原告は毎月の商業手形・受取小切手の入金予定表を作成してこれを被告に交付し、右手形・小切手(この時点では原告の手元に現存しない。)の入金予定額に基づいた融資を依頼する。

(2) 被告は概算割引料を控除した金額として、右入金予定表に記載された手形・小切手の額面総額の七割ないし八割程度の金員を前渡金として原告に交付する。

(3) 被告は、右手形・小切手が現実に交付されるまでの暫定的な措置として、前渡金の交付と引換えに原告から同額の小切手の振出しを受ける(後述のとおり、別表85ないし94記載の割引のうち被告が小切手の授受を認めているものがこれに当たる。)。

(4) 原告は、その後右商業手形・受取小切手を現実に入手する都度これを被告に順次交付する。

(5) 被告はその後一・二か月に一回程度の割合で、現実に交付を受けた個々の商業手形・受取小切手について後記の方法で割引料を算出し、その結果得られる割引価格(額面額から右割引料を控除した金額、すなわち別表手取額欄記載の金額)と前記前渡金との精算(右差額は次回精算時に繰り越すなどの処理をする。)を行う。なお、右割引料は、商業手形については、額面額に前渡金交付日から手形期日までの期間を基準にこれに数日を加えた日数(別表日数欄下段に記載の日数)について日歩一一銭の割合を乗じた金額であり、受取小切手については、日数計算によらず、額面額の概ね三パーセント(別表日歩欄記載のとおり)の金額とされた(以上の結果を記した精算書が前掲甲第五ないし第三五号証である。)。

(6) 被告は右精算が終わった時点で、暫定的に受領していた振出小切手に済印を記したり、原告の印影部分を切除するなどして無効にしたうえで原告に返却する。

(7) 被告は右商業手形を自ら交換に出さず、ほとんどを再割引に出して資金を回収していたが、右商業手形及び受取小切手はその後すべて決済された。

(8) ところで、被告は、原告以外の者との間でも右前渡金方式による割引をしていたが、右方式を採用する相手は、ソニー株式会社と取引があることを基準として、特に信用のある者だけに限定していた。

2  そこで、以上の事実に基づいて右商業手形割引の法的性質を判断する。

被告が交付を受けた商業手形の再割引によって資金回収をはかっていて、原告が自ら弁済をした事例がないことに照らせば、売買ないしその予約とみる余地もないわけではないが、原告は商業手形・受取小切手の入金予定に基づき被告から融資を受けており、実際に前渡金と引換えに被告に交付されるのは原告振出小切手であって、割引手形ではないこと、被告はこのような取引方法は割引依頼人が特に信用のある場合でなければ採用していなかったこと、割引率も振出人の信用にかかわらずほぼ一定であったこと、被告は原告の取締役に就任するなど両者は密接な関係にあったことなどの上記認定事実に照らすと、以上の割引は、割引手形の客観的な価値よりも、割引依頼人たる原告の信用に重きを置き、これへの責任追及をも考慮した取引と考えられるので、これを金銭消費貸借と認めるのが相当である。

そして、その内容は、前期商業手形割引と同様、割引手形の額面額を貸付元本、手形の支払期日を返済期日とし、割引料名下の利息の天引きを伴う金銭消費貸借であるというべきであり、貸付期間(貸付日から右返済期日、すなわち決済日までの初日算入による日数)が別表日数欄記載の日数であることは、同年月日欄記載の日と同期日欄記載の日との対照によって明らかである。

3  以上の認定に従って、本件割引による金銭消費貸借の法定利息を計算すると、別表法定利息欄記載の金額となる(利息天引き後の手取額を計算上の元本として、法定利率及び年単位に換算した貸付期間を乗じて計算。その詳細は《証拠省略》のとおりである。)。そして、右法定利息額は、すべて割引料名下の天引き利息額を下回っており、その差額、すなわち別表過払額欄記載の金額合計二二三四万〇二八三円が法定利息超過分となり、被告は同額の不当利得を得ているというべきである。

4  被告は、特に三和銀行による再割引の再割引料について、被告に現実の利得がない以上右再割引料の金額は不当利得額から控除されるべきであると主張するが、原・被告間の割引において当然に再割引を予定して、再割引日までの期間に従った利息計算をしたというのであれば格別、実際には手形の支払期日までの期間にさらに数日ないし数十日を加えた日数計算により利息を算定していること、被告が制引手形を再割引に出したとしても、それはもっぱら被告の側の事情であって、被告が手形の支払期日をまって自ら交換に出すか、右期日前に再割引を受けるかは被告の自由に選択しうることであり、原告の関知するところではないことなどに照らすと、被告の右主張を採用することはできない(なお、この点の被告の主張を採用するとなると、被告は原告への貸付けについて再割引日に弁済を受けたことになり、法定利息も再割引日までの日数についてのみ支払義務を認めることにしないと整合性を欠くというべきであるが、その結果が被告に有利となるかどうかも疑問である。)。

九  後期受取小切手割引について

1  三カの後期受取小切手割引についても、前期受取小切手と同様(前記七参照)、これを金銭消費貸借と認めることには疑問があるというべきである。

もっとも、後期には、前渡金方式に関する前期認定のとおり、受取小切手も三オの商業手形と全く同一の方法で割引交付がされていた。すなわち、前渡金の交付と受取小切手の交付とは引換えにされたものではなく、小切手交付は前渡金交付の後に交付されたものであるから、前期に比して金銭供与の先行する期間が長く金銭消費貸借といい易くはなっているが、本質的には前期受取小切手割引と変わりはなく、その延長と認められる。さらに商業手形割引と包括してなされている事実もなお消費貸借の成立を認めるに足りるものではない。

結局、この点の原告の請求は理由がない。

2  なお、後期受取小切手割引の決済に関し、原告は、貸付日の二日後の返済期日に右小切手の決済がなされたと主張するが、右主張の日に受取小切手の決済がなされたことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、前記認定のとおり、本件割引については前渡金方式がとられていたのであるから、ほとんどの受取小切手は貸付日から二日以上後に被告に交付されたものと推測され、そうだとすると、原告主張の返済日(貸付日の二日後)には未だ右受取小切手の決済はなされていなかったはずである(仮に、貸金の交付と受取小切手の授受が同時になされたものとすれば、その決済がなされたのが原告の主張する日のころであるとの推測も成り立ちうるが、右前提は前記認定事実と反するものであり、採用することができない。)。

そうすると、右受取小切手割引については利息の発生すべき貸付期間が明らかでないことになり、法定利息を確定することができないから、この点からしても原告の請求は認められないというべきである。

(一〇) 振出小切手割引について

1  三キの振出小切手割引の対象として原告が主張する小切手のうち、別表銘柄欄・額面欄下段に○印を付したものについて、被告が原告から交付を受けたことは当事者間に争いがない。

2  右争いのない事実に、《証拠省略》を総合すると、これらの振出小切手は、別表1ないし54記載分の前記商業手形・受取小切手割引において、被告が前渡金の交付と引換えに原告から振出しを受け、精算後に済印を押すなどして無効にして返却したものであることが認められ(前記八1(二)(3)、(6)参照)、これらが後期商業手形割引・受取小切手割引とは別個独立の割引とはいえないことは明らかである(《証拠省略》)。

3  次に、別表85ないし94記載分の振出受取小切手割引のうち、銘柄欄・額面欄下段に○印のないもの、すなわち小切手の授受が争われている部分について判断する。

この点の原告の主張を裏付ける書証としては小切手の写し、小切手の原本及び小切手の耳しかないところ、その割引料等の詳細を明らかにする証拠はなく(原告は割引料を額面の五パーセントで計算して主張しているが、《証拠省略》においてもこれに沿う供述を見出せず、右主張の根拠となる証拠は見当らない。)、また右振出小切手中には、小切手の耳に「M」の記載があることから被告に交付されたのではないかと推測されるものがあるほか、およそ被告に交付されたものかどうかも証拠上明らかでないものが多数ある。

さらに、原告は、これらの振出小切手割引にかかる借受金元本の返済は被告に対してその額面相当額の現金でしたと主張するが、これを裏付けるに足る証拠もない。結局、上記振出小切手割引にかかる原告の請求は理由がない。

二 以上のとおり、原告の請求は、前期商業手形割引に関し四四〇万一八一三円、単名手形割引に関し一七二万〇二一八円、後期商業手形割引に関し二二三四万〇二八三円、以上合計二八四六万二三一四円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五三年一一月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 稲葉威雄 裁判官 山垣清正 裁判官宮坂昌利は転補のため、署名押印できない。裁判長裁判官 稲葉威雄)

〈以下省略〉

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